今と昔 資金計画の基本セオリーとは?
住宅ローン選びの基本とは何か?―― 読者の皆さんは考えたことがあるでしょうか。
ここで住宅金融の歴史を振り返ると、2007年4月、これまで日本の住宅ローンを支えてきた住宅金融公庫が廃止されました。と同時に、これを好機と民間金融機関がリテール業務(個人取引)へ軸足を移し、個人向けローンに傾倒しました。その結果、住宅ローン商品は多様化し、利用者にとっては選択の幅が広がりました。住宅ローン新時代の幕開けです。
ところが、ふたを開けてみると選択肢の拡大は住宅ローンの検討者にとって必ずしも好材料とはなりませんでした。むしろ、混乱要因となる有様(ありさま)で、各人にとって最もふさわしい住宅ローンが何なのか、かえって判断基準を分かりにくくしてしまいました。
かつて公庫が全盛期の頃は、まず公庫を最優先に検討。公庫だけでは必要資金が調達できない場合、続いて年金融資の利用を検討しました。そして、それでも不足するようであれば、最後に民間銀行の住宅ローンを活用する ―― これが、ひと昔前の資金計画の基本(セオリー)でした。その当時、私は不動産売買の営業マンをしていましたが、こうした資金計画を立案しても異論を唱える人はいませんでした。
それが「公的金融」から「民間金融」へと業界地図が塗り替えられた結果、住宅ローン市場にも民営化の波が襲来し、住宅金融市場は群雄割拠の時代へと突入しました。これにより資金計画が立てやすくなるかと思いきや、かえって選択基準を分かりにくくしてしまいました。消費者はどれが自分に最適な住宅ローンなのか、判断できなくなったのです。選択肢が増え過ぎたため、過去の経験則が通用しなくなったわけです。つまり、選択の自由という「権利」を手に入れたと同時に、自己責任という「義務」を負わなければならなくなったのです。これが現在の姿です。
それだけに、これから住宅ローンを組もうという人は「どうすればベストな返済計画が立てられるのか」を様々な角度から分析し、金融知力を高める必要があります。たとえ借入金額が同じでも、リスク許容度や金利感応度によって「最適解」は異なります。要は、他人の資金計画は参考になっても、参考にしかならないのです。
そこで、住宅ローンを取り巻く環境が変化するなか、どうすれば理想の返済計画が立てられるか? ―― そのヒント(基本)を以下に紹介します。
金利上昇局面では「固定」下降局面では「変動」タイプを選べ!
今般、住宅ローン利用検討者の多くがジレンマを抱えています。低金利の恩恵を享受すべく、変動型の金利タイプを選ぶべきか、それとも金利上昇リスクを避けるために固定型の金利タイプを選ぶべきか、その判断に迷っています。こうした背景にあるのが民間金融機関の台頭です。上述した通り、民間銀行がローン商品を多様化させた結果、住宅ローン利用検討者にとっては混乱要因となっています。
しかし、市場環境の変化に影響されない不変の原則は存在します。次の考え方がそうです。
金利局面に応じた金利タイプの選び方
- 金利の上昇局面では固定型の金利を中心に選ぶ
- 金利の下降局面では変動型の金利を優先させる
これまで住宅金融公庫(現在のフラット35)などの全期間固定金利タイプが選好されてきたのは、「借入金利は上昇し続ける」という前提があったからです。かつて公庫は年率5.5%まで上昇しました。高い経済成長に支えられ、住宅ローン金利には強い上昇圧力が働いていました。もし、その当時、変動金利でローンを組んでいたら、かなりの利払い負担を強いられたに違いありません。
このことから分かるように、「長らく低金利が続くなか、いつかは上昇局面に転じる」という見通しを持つ人は固定タイプを優先すればいいのです。他方、「いまだデフレ脱却宣言が出せないなか、当面、低金利環境は継続する」と予想する人は変動型の金利タイプがいいと思います。金利動向を予想できる人は、上記の原則に従って金利タイプを選べばいいのです。
金利の先行きが見通せないなら「柔軟性」を持たせよう
では、金利動向を見通す自信のない人はどうすればいいでしょうか。
金利の先行きを予測する?―― 予想などできるはずがないと誰もが同じ感想を持つでしょう。確かに、的中させるのは専門家だって無理です。ましてや20年~30年近くに及ぶ長期見通しとなれば、なおさら的中率は下がります。
そこで、提案したいのが「柔軟性」を持たせることです。先が読めないのなら、その時々に一番有利な金利を「自由」に選べるようにローンを組めばいいのです。たとえば「3年固定」や「5年固定」などの金利タイプを選択し、3年後あるいは5年後になった段階で、その時点のベストなローンを選び直せばいいのです。もしかしたら、画期的な新商品が発売されているかもしれません。借り換えも有効な選択肢です。要は、いつでも金利変動に即応できる柔軟な返済計画が立てられるようにしておきたいのです。
と同時、ご自身の「リスク許容度」も把握しておいてください。ここでいうリスク許容度とは、金利変動リスクに対する家計の経済的な対応能力を意味します。たとえ金利上昇により毎月の支払いが急増しても、家計が増加分を吸収できるかどうか、という耐性力です。リスク許容度が高ければ急激な返済増に耐えられ、元金均等返済や変動金利による資金計画にも挑戦できます。その時々で出来るだけ低い金利を積極的に選ぶ返済プランを目指せます。市場金利と住宅ローン金利の「金利差」を極力なくすことで、少しでも余分な利払いを抑えられます。
当然、こうした返済プランはリスク許容度の低い人には勧められません。リスク許容度の低い家庭は金利変動に振り回されず、安定的に返済することを目指すべきです。無茶な資金計画は家庭を崩壊に導くだけです。このように、自身の返済能力を知るうえでリスク許容度の把握は必須です。
住宅ローンは「リスクの高い金融商品」と心得よう
最後、テクニカルな知識も補足しておきます。住宅金融市場の多様化により、各行は差別化を図ろうと躍起です。金融機関同士のサービス合戦が過熱しています。それだけに、金利の「高低」ばかりに執着せず、周辺サービスにも目を向けるべきです(下記参照)。保証料のかからない住宅ローンを選ぶとか、繰り上げ返済手数料が無料の金融機関を探すなど、トータルでの負担軽減を目指してください。
こうした点も同時に確認しておきましょう
- 「ローン保証料」や「繰り上げ返済」の手数料が無料かどうか?
- 提携ローンを利用すると、市場金利より優遇された貸出金利で住宅ローンを借りることができる
- 預金口座を新規開設したり、給与振込みの利用実績があると、金利優遇されることがある
- 「住宅性能表示住宅」が一定のランク以上の場合、あるいは「建設性能評価書」を取得した住宅では金利優遇されることがある
- 自治体によっては利子補給制度や融資制度を用意している
- 住宅ローンの借入本数が増えると、その分「諸費用」の総額も高くなる
加えて、収入合算して資金計画を立てる場合には「名義」に注意が必要です。というのも、特に共働きのご夫婦が収入合算してローンを組んだ場合、奥さんが退職して収入が途絶えてしまうと、当然ながらご主人単独での返済を余儀なくされます。その際、ご主人が奥さんの債務を肩代わりすると、税法上、贈与税の対象となります。また、不幸にして離婚となった場合も財産分与でもめる恐れがあります。実際、私のところへ同様の相談が来ています。人生いろいろ、家庭環境もいろいろです。
住宅ローンは“リスク商品”なのです。返済が滞れば、自宅は強制売却(競売)されてしまいます。たとえ巨大地震で自宅が全壊しても返済義務は残ります。それほど大きなリスクを住宅ローンは内包しているのです。本稿を通じて、住宅ローンはリスクの高い金融商品の1つという認識を持つようにしてください。