新築マンションが「竣工売り」中心になる日を願ってやまない

現在の新築マンション販売は「青田売り」が主流となっている。青田売りとは、マンションが工事中の段階から販売を開始する売り方だ。建物が未完成のため、買い主は高額な新築マンションをパンフレットやモデルルーム見学だけでその適否を判断し、購入するかどうかの決断を下さなければならない。まるで、カタログだけを見てショッピングする通信販売にも似た販売形態だ。これでは買い主が安心して契約を締結できるか疑問が残る。

そこで、宅建業法では完成したマンションが販売時の広告と異なることがないよう、また、引き渡し前に売り主が倒産しても被害を最小限に食い止められるよう、消費者保護の観点から一定の法的セーフティネットが敷かれている。具体的には以下の内容が定められている。

未完成物件における4つの法的セーフティネット
広告開始時期の制限 都市計画法による開発許可や建築基準法による建築確認許可などが承認された後でなければ、広告を出してはならない。
契約締結等の時期の制限 都市計画法による開発許可や建築基準法による建築確認許可などが承認された後でなければ、契約を締結してはならない。
重要事項の説明 物件構造や契約形態・解約方法など、買い主が契約するかどうかの判断材料となる重要な事項について、宅建業者は必ず契約前に買い主に説明しなければならない。
手付金等の保全措置 宅建業者は、買い主から受け取る手付金が一定の枠を超える場合、必ず保全措置(※)を講じなければならない。

※保全措置とは、売り主が倒産しても買い主に手付金が返還されるよう、保証機関や保険事業者と売り主が契約を結び、返還債務を保証する措置をいう。

「販売機会の獲得」と「早期の資金回収」が青田売りの2大理由

しかし、これで万策といえるか疑問だ。もとより、どうしてマンションデベロッパーは青田売りに執着するのか?―― そこには青田売りを止められない2つの理由があった。まず1つが「販売機会の獲得」だ。

マンション分譲業者の本音として、竣工までに全戸を売り切りたいという思いがある。引き渡しが始まると布団が干してあったりゴミ置場にゴミが捨ててあったりと、どうしても生活感が色濃くにじみ出る。「夢」を売っている分譲業者にとって、生活臭さはマイナス要因に他ならないのだ。そこで、洗練されたイメージを維持できるよう、建物が完成する前に完売したいわけだ。そのためには少しでも早くから「前倒しで販売」=「青田売り」するのが得策となる。こうして早期の販売機会を獲得すべく、現在も青田売りが続けられている。

次に、2番目として「早期の資金回収」が挙げられる。マンション分譲事業のケースでは、買い主からの購入代金(残金精算)をもって、売り主はマンション建設費を支払うことになる。そのため、代金未回収の間は金融機関からの借入金によって運転資金をつないでいる。

しかし、マンションは工事開始から完成(=残金精算)までに年単位の時間がかかり、大規模物件となれば3年以上になるケースもある。この間、分譲業者はかなりの金利負担を強いられることになる。そのため、契約時に買い主から振り込まれる手付金を借金返済に充当し、少しでも利息軽減を図りたいと考える。では、一体どうすれば手付金を早期に回収できるか?―― 少しでも早く売買契約を締結できれば、その分、早期に手付金が手に入る。こうして、新築マンション販売では青田売りが主流となっていった。

お気付きのように、そこには「顧客ファースト」という概念はない。残念ながら、売り主の都合ばかりが優先されている。唯一、2番目に挙げた金利負担のツケが「もし、販売価格に転嫁されたら…」と考えると、その点は青田売りの恩恵を享受できていると言えなくもない。しかし、トータルで損得勘定した場合、恩恵がリスクを上回る可能性は決して高くない。

洋服なら「試着」マイカーなら「試乗」 マンションなら「?」

そこで、提案したいのが「試住」(しじゅう)という考え方だ。洋服なら「試着」、マイカーなら「試乗」ができるように、新築マンションにも「試住」=「試し住み」という発想があって不思議ではないだろう。契約するか否かを事前に判断できるよう、試し住みできる期間を設けてはどうかという提案だ。

無論、実現するには越えなければいけないハードルがいくつもある。竣工売りが絶対条件となるだろう。その一方、実体験できればモデルルームや内覧会は不要となり、また、契約解除やクレームも激減するはずだ。売り主側にもメリットは十分あるわけだ。

人生最大の買い物を“ネットショッピング”同然のような手法で分譲するのは、もう終わりにしなければならない。買い主軽視の時代は、ここで終止符を打つべきだ。今後、マーケットはさらなる市場規模の縮小を余儀なくされ、買い手市場が続く。それだけに、サバイバル合戦を生き延びるためにも「試住」を導入する野心的な分譲マンション業者の出現が期待される。