「この1か月で現在の流行を終息させなければならない。5月は、終息のための1か月であり、そして、次なるステップに向けた準備期間であります」
「新たな日常を国民の皆さんと共につくり上げていく。5月はその出口に向かって真っすぐに進んでいく1か月です。同時に、次なる流行のおそれにもしっかり備えていきます。その守りを固めるための1か月でもあります」――
上記はどちらも緊急事態宣言を延長すべく、5月4日に行われた記者会見で発せられた安倍総理のコメントです。コロナの時代の新たな日常を作り上げようと、5月7日、緊急事態宣言が5月31日まで延長されました。
改めて、緊急事態宣言とは、新型コロナウイルスの全国的かつ急速な蔓延により、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合、外出自粛や感染防止に必要な協力要請を行うことで、感染の拡大を回避・減少へと転じさせるべく発せられる宣言です。この宣言には医療現場の過酷な状況を少しでも緩和すべく、医療崩壊の防止に資する狙いもあります。現場の疲弊は限界に近づきつつあり、医療供給体制は逼迫しているからです。われわれは1人ひとりが感染の拡大防止に努め、人と人との接触を極力8割削減する努力を怠ってはなりません。
こうして、私たちはある程度の長期戦を覚悟し、コロナの時代の新たな日常へと足を踏み入れました。いまだ感染“第2波”の可能性が否定できない中にあって、生命と暮らしを守るためには『新しい生活様式』(下記参照)を取り入れ、各自、実践せざるを得ないのです。
その際、新しい生活様式の基本となる3原則が(1)人と人の距離を空けること、(2)手洗いの励行、(3)他人への感染を防ぐためのマスクの着用―― です。こうした日々の回避行動が感染拡大を防ぎます。
新しい生活様式の具体例(抜粋)
《ひとり1人の基本的感染対策》
- 人との間隔は出来るだけ2メートル(最低1メートル)空ける
- 会話をする際は可能な限り真正面を避ける
- 外出時、屋内にいるときや会話をするときは、症状がなくてもマスクを着用する
- 家に帰ったらまず手や顔を洗う。できるだけすぐに着替える。シャワーを浴びる
- 手洗いは30秒程度かけて水とせっけんで丁寧に洗う
- 感染が流行している地域からの移動、感染が流行している地域への移動は控える
- 発症したときに備え、誰とどこで会ったかメモしておく
《日常生活を営むうえでの基本的生活様式》
- まめに手洗い、手指の消毒
- せきエチケットの徹底
- こまめに換気する
- 身体的距離の確保
- 3密の回避(密集、密接、密閉)
- 毎朝の体温測定と健康チェック。発熱またはかぜの症状がある場合はムリせず自宅で療養する
《日常生活の各場面別の生活様式》
- 買い物は通販や電子決済を活用する
- 1人または少人数で、すいた時間に買い物を済ませる
- レジに並ぶときは前後にスペースを設ける
- 筋トレやヨガは自宅で動画を活用する
- ジョギングは少人数で行う
- 食事する際、対面ではなく横並びで座り、大皿での会食は控える
- 持ち帰りや出前、デリバリーも上手に活用する
- 冠婚葬祭など親族行事の参加に際し、発熱やかぜの症状がある場合は欠席する
《働き方の新しいスタイル》
- テレワークや時差通勤を継続する
- 仕事の会議、名刺交換どちらもオンラインを活用する
☆ ☆ ☆
政府は緊急事態宣言を5月31日まで延長すると決定した一方で、専門家の分析次第では31日までの期限満了を待たずに宣言を解除する方針も示しています。今月14日をメドに、解除する際の判断基準を示す考えです。
これは勝手な想像ですが、大阪府が5月5日に公表した「大阪モデル」を意識したのではないかと推察されます。「大阪モデル」とは、停滞する経済活動を早期に再開させるべく、府知事が国に先んじて提示した「出口戦略」のための数値目標です。外出自粛や休業要請を解除する際の独自基準を意味します。
具体的には、以下の3つの基準を7日間連続で達成できれば、要請を段階的に解除するとしています。後塵を拝さぬよう、政府も5月14日をメドに解除要件を策定・公表する予定です。
大阪府が独自に定めた自粛解除の判断基準
- 新規感染者のうち経路不明者が10人未満
- PCR検査件数に対する陽性率が7%未満
- 重症者の病床使用率が60%未満
海の向こうでは「経済正常化」に向けた動きが目立ち始める
日本が“stay home”を継続するのとは裏腹に、海の向こうでは自粛解除に向けた動きが広がっています。隣国の韓国は5月5日、3月中旬から実施してきた外出自粛要請を解除しました。「感染の終息を意味するものではない」と強調しつつも、外出や集会・行事の開催を認めました。これにより、サッカー韓国Kリーグが8日、約2カ月半遅れで開幕します。韓国は経済活動の再開へ舵を切りました。
欧州では、ユーロ圏最大の経済規模を誇るドイツが5月6日、3月から導入していた制限措置を大幅に緩和しました。新たな感染者数の減少傾向が確認されたため、小規模店舗に限って認めていた再開の要件を大規模店舗にまで拡大しました。すべての店舗の営業が認められるようになったのです。こちらも経済正常化への道を一歩踏み出しました。
そして、最も経済活動を再開したがっているのがアメリカのトランプ大統領でしょう。今年11月の大統領選挙まで残り半年となるなか、ホワイトハウスによると、5月下旬にも新型コロナウイルス対策本部を縮小し始める検討に入りました。
すでにトランプ政権は4月16日、市民生活や経済活動の再開手順を定めたガイドライン(政府指針)を公表しています。新型コロナウイルス感染拡大の収束度合いに応じ、日常生活や企業活動への制限を3段階に分けて緩和・解除するための行動指針を示しています(下記参照)。トランプ大統領の本心としては、大統領選で再選するための目に見える“功績”がほしいのです。
米トランプ政権が掲げる経済再開に向けたガイドライン
《第1段階》
仕事はテレワークなど、在宅勤務の継続を求めるものの、通勤は段階的に可能とする。また、10人以上のグループで集まらないよう促し、引き続き外出時には物理的な距離を保つよう求める。
《第2段階》
学校の授業や校外活動を再開し、一定の距離を保てれば50人までの集まりも認める。他方、高齢者や基礎疾患のある人たちには引き続き自宅待機を求める。
《第3段階》
高齢者施設や病院への訪問(面会)が可能になり、ほぼ全面的にレストランや映画館、スポーツジムの営業再開も認める。
コロナ後の新しい日常「ニューノーマル」の時代へ
このように、世界的な潮流としてアフターコロナを意識した動きが顕現しています。わが国では5月7日、新型コロナウイルスの治療薬として「レムデシビル」が特例承認されました。パンデミックの犯人が新型コロナウイルスである点を考えれば、治療薬の承認は自粛解除かつ経済再生の糸口となります。ステイホームに限界を感じている諸氏には朗報といえるでしょう。
今後、コロナ後の社会は「ニューノーマル」に置きかわると考えられています。たとえば、仕事でも重要度の高くない出張は控えられ、テレビ電話(リモートワーク)での対応が常態化するのです。来夏に開催される東京オリンピックでは“3密”を避けるような誘導がなされるでしょう。競技会場では「隣の席は空けて座ってください」と案内されるわけです。
新型コロナ終息後もウイルス感染には細心の注意が払われ、政府が提示した「新しい生活様式」がわれわれの日常生活に溶け込みます。近い将来、学校では「感染症の予防法」という教科が加わるかもしれません。すべてウイルスと対峙するための英知なのです。より健康志向が高まるなか、こうした流れ(パラダイムシフト)が止まることはないでしょう。